テントは一つあれば足りるのに、私は何張りも持っている
キャンプをするために、テントは一体いくつ必要なのだろうか。
普通に考えれば、一つあれば十分です。
雨風を凌ぐことができて、中でぐっすり寝ることができれば、道具としての役割はしっかり果たしてくれます。
それなのに、私は何張りものテントを所有しています。
一泊二日のために、そこまでやる? でも書いた通りです。
キャンプをしない人から見れば、「なんでそんなにたくさん要るの?」と首を傾げたくなるでしょう。
まったくもってごもっともな意見ですし(笑)、自分でも時々そう思います。
けれど、キャンプへ行くとなると、毎回同じテントを引っ張り出して持っていくわけではありません。
今回は誰と行くのか。
どんなロケーションのキャンプ場なのか。
ぽかぽかとした春や秋なのか、身が引き締まる真冬なのか。 雪中キャンプになるのか。
当日の天気予報はどうなのか。
そして、自分はそこでどんな時間を過ごしたいのか。
雪中キャンプの様子です。翌朝はかなり埋まっていました
それらをあれこれと思いを巡らせながら、「今回はこの一張りにしよう」と車に積み込むテントを選び取る。
実はこの準備の時間こそが、キャンプという趣味の大きな醍醐味の一つでもあるのです。
一人で行くソロキャンプと、仲間や家族と行くキャンプでは、当然ながら必要とされる空間の広さが違います。
一人なのに不必要に大きなテントを持っていけば、設営も撤収も無駄に時間と体力を奪われます。
逆に人数が多いのに小さなテントでは、窮屈でくつろぐことすらできません。
中で寝るだけで十分なのか。
それともリビングのようにテントの中でゆっくり過ごしたいのか。
大事なギアをどこに配置するのか。
そうした条件ひとつで、選ぶべきテントはガラリと変わります。
ですから、大きなテントを持っているからといって、それがどんな時でも一番優れたテントというわけではありません。
コンパクトな方が快適な日もあれば、広々とした空間が恋しい日もあるのです。

夏はタープ下に小さなテントを張って海風を浴びながら過ごします

今、一番のお気に入りのテントで出番が多いテントです
季節が変われば、求める性能も変わります。
心地よい風が吹き抜ける春や秋なら、風通しがよくて開放的なつくりのものが最高に気持ちいい。
一方で真冬のキャンプとなると今度は冷気との戦いです。
できるだけ冷たい隙間風を遮断したいですし、外で過ごす時間よりも暖を取りながらテント内で過ごす時間の割合が増えてきます。
同じ自然を相手にするキャンプであっても、季節や環境が変われば手に入れたい要素は一変するのです。
フィールドの形状によっても左右されます。
区画がゆったりとしたキャンプ場なら問題なく張れる大型テントも、サイトが細かく区切られていれば収まりません。
風の強さや地面の傾斜、西陽が差し込む角度によっても適した幕は変わってきます。
だから私には、「これさえ持っていればどんな状況でも絶対に大丈夫」という万能な一張りという感覚が、あまりありません。
もちろん、何張りも持っていなければキャンプが楽しめないわけではありません。
一張りのお気に入りのテントをどこへ行くにも愛用し、大切に使い続けていく。
それも間違いなく格好いいスタイルです。
ただ私の場合は、その日、その場所でのキャンプ体験に一番フィットするものを仕立てるように選びたいのです。
「今日はこのテントで、居心地の良いリビング空間をつくろう」
「今回はタープと組み合わせて開放感を味わおう」
「今日はテントそのものの造形美を愛でよう」
そんな風に構想を膨らませていきます。
テントにはそれぞれの設計思想があり、スペックの数値だけで測れない魅力があります。
いざフィールドに張った時の佇まいも違えば、そこに愛用の椅子やテーブル、ランタンを置いた時に広がる空気感もまったく異なります。
同じ家具やギアを持ち込んだとしても、包み込むテントが変わるだけで、そこに出現する自分だけの世界観まで一変してしまう。
だからこそ、また新しい道具に魅せられて欲しくなってしまうのです。
ここまで言葉を並べてみると、結局はたくさんのテントを所有している自分を正当化しているだけのような気もしてきますが。(爆)
もし誰かから、「ボス、一番いいテントってどれですか?」と聞かれたら、私はきっと返答に困ってしまいます。
その人が「誰と」「いつ」「どこへ行って」「どんなキャンプをしたいのか」が分からなければ、答えようがないからです。
自分が個人的に愛用しているテントを薦めることはできますし、市場で絶大な人気を誇る定番ギアを紹介することもできます。
けれど、それが目の前のその人にとっての「一番」になるかどうかは、全く別の話です。
そんな道具選びの思考を巡らせていたら、案の定、また仕事のことが頭に浮かんできてしまいました。
キャンプ場に身を置くと、どうしていつもこうなってしまうのでしょうか。(笑)
企業のホームページをつくる仕事をしていても、お客様から「どういうサイトが一番いいですか?」と尋ねられることがあります。
これもまさに、テント選びと全く同じ構造だと思っています。
例えば採用サイト一つをとっても、生き生きと働く社員さんの表情を前面に出した方が魅力を伝えられる会社もあれば、経営者の熱い理念や言葉をストレートに打ち出した方が響く会社もあります。
職人の手仕事や仕事内容の深さをとことん見せるべき会社もあれば、取り扱う商品や技術力の高さを主役に据えるべき会社もあります。
写真を大きく魅せるデザインが良いのか、丁寧なテキストと言葉で説明し尽くすのが良いのか。
そこには「これが唯一絶対の正解」という万能な答えなど存在しません。
その会社が「誰に対して」「何を伝えたいのか」。
今、現場で「どんな課題に頭を抱えているのか」。
どこに「他社には真似できない強み」があるのか。
そして、「これからどんな未来を描いていきたいのか」。
そうした背景や目的が違っていれば、生み出すべきホームページの姿が変わるのは当然のことなのです。
Webの世界には、常に新しい流行やトレンドが存在します。
デザインのトレンドもあれば、マーケティング手法の流行もあります。
今で言えば間違いなくAIの活用でしょう。
新しいテクノロジーや手法が登場すれば、私もプロとして真っ先に学びますし、役立つものであれば現場へ積極的に取り入れます。
けれど、「今はこれが流行っているから、御社もこれを導入しましょう」という提案の仕方は、どこか違うのではないかと思うのです。
キャンパーの間で大流行している話題のテントがあったとしても、真冬に雪山へ行く人と、夏しかキャンプをしない人とでは選ぶべき答えが違います。
一人で静かにソロキャンプを楽しみたい人に、ファミリー向けの大型ツールームテントを薦めても何の意味もありません。
それと同じことです。世間で流行しているかどうかよりも、その会社という独自のフィールドに「本当に合っているかどうか」。
私はいつだって、そちらの視点を何より大切にしたいと考えています。
テントを選ぶのであれば、「一番いいテントはどれか」を探す前に、「あなたはどんなキャンプをしたいのですか?」と問いかけることから始めるべきです。
仕事においても、まったく同じアプローチをとります。
「どんなホームページをつくりましょうか?」
という具体的な手段から入るのではなく、
「この会社は、これからどこを目指したいのですか?」
「どんなお客様や求職者に選ばれたいのですか?」
「その人たちに、自社のどんな姿を知ってほしいのですか?」
そうやって根本にある想いや目的に耳を傾け、深く掘り下げることから始めたい。そうして目的がクリアになって初めて、本当に必要な「手段」の姿がクリアに見えてきます。
それが採用に特化したサイトなのかもしれないし、社員インタビューを積み重ねるコンテンツなのかもしれない。
丁寧なFAQ(よくある質問)を拡充させることかもしれないし、場合によっては「今すぐホームページを作り直すこと」自体が最優先の課題ではない、という結論に至ることだってあります。
最初から型にハマった道具を決めつけない。
目的をしっかりと共有し、対話を重ねた上で最適な道具を選び出していく。
テントは一つあれば、とりあえずキャンプはできます。
ホームページも一つあれば、会社の基本的な情報を発信することはできます。
けれど、「何を成し遂げたいか」によって、手にするべき道具は全く変わってくるのです。
私は何張りもある手持ちのテントの中から、その日の自然環境や過ごし方に最も寄り添ってくれる一張りを選びます。
仕事の現場でも、常にそうありたいと思っています。
自分が売りたいパッケージや流行の型を押し付けるのではなく、その会社の今と未来に一番しっくり馴染む仕掛けをじっくりと考え抜く。
「これが唯一の正解です」と最初から決めつけない。
誰と、いつ、どこで、何を成し遂げたいのか。
まずはそこから丁寧に話を聞く。
考えてみれば私は、キャンプでも仕事でも、「何を使うか」という手段の前に、「何を叶えたいか」という目的をこねくり回して考える時間が、たまらなく好きなのかもしれません。
とはいえ、これ以上新しいテントが自分に必要なのかと問われれば、それはまた全く別の話なのですが。(爆)
FAQ
「なぜカンドウコーポレーションは取材を重視するのですか?」
「なぜカンドウコーポレーションは「言語化」を重視するのですか?」
「AIは会社の「強み」をどう判断しますか?」
「一泊二日のために、そこまでやる?」
「新品のキャンプギアが、ちょっと恥ずかしい」
「不便を楽しむために、便利なギアを買っている」
「キャンプ場に着いてから、考えることもある」
(最高経営責任者) エグゼクティブ・ビジネスデザイナー 兼ストラテジックパートナー
1961年生まれ。広島県広島市出身。広島修道大学中退後、リクルート、カーディーラーの採用・教育担当を経て、企業内の体質改善・採用・教育コンサルタント会社として、1991年2月有限会社オフィスCAN(現 株式会社カンドウコーポレーション)を設立。その後思い切った業態転換により、クリエイティブファームとしてのポジションを確立する。
福原 勘二のプロフィール