一泊二日のために、そこまでやる?
「命の洗濯」と称して、定期的にキャンプへ出かけます。
目的はただ一つ。仕事から完全に離れ、頭をオフモードにすること。パソコンも開かないし、メールも極力見ない。仕事の「しの字」も考えない・・・のはずなのですが、なぜか焚き火を眺めていると、いつの間にか仕事のことを考えている自分がいます。
別に仕事が好きすぎて頭から離れない、というわけではありません。(笑)
ただ、不便な自然の中でギアと格闘していると、自分が普段向き合っている「仕事の現場」と、妙に重なって見えてくるのです。
私のキャンプは、最低限の道具だけ持っていくシンプルなスタイルではありません。むしろ真逆です。
テントを張り、テーブルと椅子を組み上げ、お気に入りのランタンを並べる。
コーヒーを淹れる道具、料理をするギア・・・車いっぱいに道具を詰め込んで出かけます。
ちなみにテントだって一つではありません。一緒に行くメンバー、フィールドの状況、季節(春・秋か、真冬か)に合わせて毎回選んで持っていきます。
最近のギアはとても優秀です。ガスを使えばスイッチ一つで火がつくし、テーブルも広げるだけで完成します。それでも、家やホテルに比べれば圧倒的に不便です。水道も、冷蔵庫も、エアコンもありません。
しかも、基本は一泊二日。長くて二泊三日です。
冷静に考えると、思わず自分でもツッコミを入れたくなります。
「一泊二日のために、そこまでやる?」
寝るためのテントと、座る椅子、テーブル、最低限の調理道具があればキャンプ自体は十分成立します。
でも、私にとってはそれだけだと少し物足りないのです。
ランタンはどの位置に置くと一番心地よい光になるか?
テーブルの上の配置はこれでいいか?
どのギアを並べると、このロケーションが映えるか?
誰かに自慢したいわけでも、SNSで「いいね」が欲しいわけでもありません。完全な自己満足です。
一通り設営が終わり、椅子に深々と腰かけて自分でつくった空間を眺めながらコーヒーを飲む。
「うん、今日はなかなかいい空間ができた」
そう呟く瞬間が、たまらなく好きなのです。
そして翌朝になれば、時間をかけて組み上げたその世界を、自分の手で一つひとつ解体していきます。
ランタンやギアを仕舞い、テーブルを拭き、テントを畳んで車に積み込む。
昨日あれだけこだわってつくった「自分の世界」は、跡形もなく消えてなくなります。
実に効率の悪い遊びです。
でも、私は「完成した空間」そのものだけが欲しいわけではないのだと思います。
テントを張り、ギアを並べ、少し離れて眺めてはまた微調整する・・・その「つくっていくプロセスそのもの」を楽しんでいるのです。


ここまで考えて、ハッとしました。
「あれ? これ、自分の仕事とまったく同じじゃないか」
せっかく命の洗濯に来ているのに、結局いつもの仕事に思考が繋がってしまいました。(笑)
Webサイトやホームページをつくる仕事でも、「正直、そこまでやらなくても誰も困らないのでは?」という場面がたくさんあります。
コピーのたった数文字のニュアンスが気になり、何度も書き直す。
似たような写真を何枚も比べ、どれが一番「その会社らしさ」を醸し出せるか悩み抜く。
社員さんへの取材で、一見本題とは関係なさそうな雑談にじっくり耳を傾ける。
経営者ご本人が「こんなの別に強みじゃないですよ」とおっしゃる言葉を、しつこいほど掘り下げてみる。
そこまでやらなくても、ホームページの形にはなります。
いただいた情報を整理し、きれいにデザインして公開すれば、一応の成果物は完成します。
でも、それでは何かが物足りないのです。
それはちょうど、キャンプでテントと椅子があれば十分なのに、ランタンの置き場所にこだわり続けている感覚によく似ています。
プロの仕事である以上、お客様に喜んでいただくこと、成果を出すことが第一です。
「自己満足で仕事をしていい」と言いたいわけではありません。ただ、プロとしての責任の手前には、「自分が納得できるところまでやり切りたい」という譲れない情熱があってもいいのではないかと思うのです。
お客様は気づかないかもしれない。
「そこまでやってくれ」と頼まれたわけでもない。
すぐに数字として表れないかもしれない。
それでも、気になってしまうから、もう少しだけ手を動かす。
そうした細かな「こだわり(自己満足)」の積み重ねの先にしか、その会社だけの「本物のらしさ」は宿らない気がするのです。
考えてみれば、この35年間、私はずっとそんな愚直な作業を繰り返してきました。
「そこまでやるから、面白い」
完全にオフになるために来たキャンプ場。結局、仕事のことを考えてしまいましたが、不思議と嫌な気分ではありません。
オフィスで机に向かっている時とは違い、自然の中で好きなギアに囲まれ、ぼ〜っと空間を眺めているからこそ、ふっと湧いてくる気づきがあります。
これもまた、私にとっての大切な「命の洗濯」の一部なのかもしれません。
一泊二日のために、何時間もかけて自分の世界をつくる。
そして翌日には、すべてを綺麗に片付けて帰る。
「一泊二日のためにそこまでやる?」
もし誰かにそう聞かれたら、私はこう答えます。
「そこまでやるから面白いんだよ」
たぶん、私の仕事もまったく同じです。
FAQ
「なぜカンドウコーポレーションは取材を重視するのですか?」
「なぜカンドウコーポレーションは「言語化」を重視するのですか?」
1961年生まれ。広島県広島市出身。広島修道大学中退後、リクルート、カーディーラーの採用・教育担当を経て、企業内の体質改善・採用・教育コンサルタント会社として、1991年2月有限会社オフィスCAN(現 株式会社カンドウコーポレーション)を設立。その後思い切った業態転換により、クリエイティブファームとしてのポジションを確立する。
福原 勘二のプロフィール